プロカルシトニン測定により下気道感染症に対する抗生物質の使用率を減少させる可能性

下気道感染症患者において、プロカルシトニンに基づく治療と標準的ガイドラインによる治療と比較したところ、有害転帰率は同程度であるものの抗生物質曝露率および有害作用率は低かった
【9月16日】プロカルシトニン(PCT)測定は下気道感染症(LRTIs)に対する抗生物質使用率を減少させる可能性があることを示す多施設・非劣性・ランダム化比較対照試験の結果が『Journal of the American Medical Association』9月9日号に報告されている。
「不必要な抗生物質の使用は細菌の耐性の増大に大きく寄与するとともに、医療費および薬剤関連有害事象のリスクを増加させている」とバーゼル大学病院(University Hospital Basel)(スイス、バーゼル)のPhilipp Schuetz, MDをはじめとするProHOSP Study Groupの研究者らは記している。「北西半球における抗生物質の処方のうち最も頻度が高い適応は...LRTIsであり、その重症度の範囲は自然に治る急性気管支炎から慢性閉塞性肺疾患COPD)の重度急性増悪や生命を脅かす細菌性市中肺炎(CAP)まで及んでいる。....小規模な以前の試験において、...PCTアルゴリズムはLRTIs患者における抗生物質使用を減少させている」
この研究の目的はPCTアルゴリズムがLRTIs患者において重篤な有害転帰のリスクを増大させることなく抗生物質使用を減少させるかどうかを明らかにすることであった。2006年10月から2008年3月の期間に、スイスにおける三次医療病院6施設の救急科を受診した主に重度のLRTIs患者合計1359例をPCT群または対照群にランダムに割り付けた。PCT群では、抗生物質の開始と中止に関するカットオフ値を事前に設定したPCT アルゴリズムに基づいて抗生物質の投与を行い、対照群では標準的ガイドラインに従って抗生物質を処方した。
血清中PCT濃度は病院ごとに現地で測定し、指示はインターネットを用いて行った。この研究の主要評価項目は死亡、集中治療室入室、疾患特異的合併症、30日以内の抗生物質投与を必要とする再発感染からなる複合的有害転帰の非劣性であった。事前に設定した非劣性の境界は7.5%であった。この他の評価項目としては、抗生物質曝露および抗生物質の有害作用を用いた。
PCT群と対照群では、全有害転帰率は同程度であった(PCT群15.4% [n=103] 対 対照群18.9% [n=130]; 両群間の差 -3.5%; 95%信頼区間[CI] -7.6% - 0.4%)。以下に示す通り、全ての患者において、抗生物質曝露の平均期間は対照群より短かった。
PCT群 対 対照群: 5.7日 対 8.7日; 相対的変化-34.8%; 95% CI -40.3% - -28.7%
CAP患者(n=925): 7.2日 対 10.7日; -32.4%; 95%CI -37.6% - -26.9%
COPD増悪患者(n=228): 2.5日 対 5.1日; -50.4%; 95%CI -64.0% - -34.0%
急性気管支炎患者(n=151): 1.0日 対 2.8日; -65.0%; 95%CI -84.7% - -37.5%
PCT群では対照群より抗生物質関連の有害作用の頻度が低かった(19.8% [n=133] 対 28.1% [n=193]; 両群間の差 -8.2%; 95%CI -12.7% - -3.7%)。
「LRTIs患者において、PCTガイド治療を標準的ガイドラインによる治療と比較したところ、有害転帰率は同程度であり、抗生物質曝露率および抗生物質関連有害作用率は低かった」と同研究の著者らは記している。「スイスより抗生物質処方率の高い国々では特に、PCTガイド治療には、抗生物質曝露、抗生物質関連の有害作用のリスク、抗生物質耐性の低減という点で、かなり大きな臨床上および公衆衛生上の意味があるであろう」
この研究の限界としては、複合評価項目の使用、ホーソン効果(監視されることを知っている臨床医はガイドラインの遵守度が高くなる可能性がある)、スピルオーバー効果(PCT検査による介入は対照群における抗生物質処方パターンに影響を及ぼした可能性がある)が挙げられる。さらに、両群とも、抗生物質投与の中止または減量の最終判断は主治医の裁量に任された。
付随論説において、ピッツバーグ大学医学部(University of Pittsburgh School of Medicine)のDonald M. Yealy, MDおよびピッツバーグ大学医療センター(University of Pittsburgh Medical Center)(いずれもペンシルベニア州)のMichael J. Fine, MD, MScは更なる研究の限界について考察しているが、同研究では「よりオーダーメードされた LRTIsの管理について方向性を示した」ことを示唆している。
「今後、血液検体や組織標本を用いて微生物のDNA断片、臓器のストレスとシステムの応答の血中マーカー、および臨床的転帰、薬剤の有効性、またはその両者を予測する遺伝的パターンを迅速に測定することができる、こうした '治療診断(theragnostic)' 法の数が増加していく可能性が高い」とYealy博士およびFine博士は記している。「PCTガイド医療を実施すれば、こうしたテーラーメードのアプローチの方向に向かう第一歩となり、LRTI患者により適した抗生物質療法を提供しながら人口全体では抗生物質の適正使用につながる可能性がある」
この研究は一部、スイス国立科学財団(Swiss National Science Foundation)、サンテスイス(Santé Suisse)、Gottfried and Julia Bangerter-Rhyner-Foundation、バーゼル大学病院、Medical University Clinic Liestal、Medical Clinic Buergerspital Solothurn、Muensterlingen、Aarau、およびLucerneの州立病院、スイス内科学会(Swiss Society for Internal Medicine)、バーゼル大学病院の援助を受けている。
PCTアッセイの主要なメーカーであるBRAHMS社は全てのアッセイ関連用具を提供するとともに、施設内に未だ備わっていない場合にはKryptor機器、ならびに同研究に関連した10,000件の測定に必要なキットとそのメンテナンスを提供した。
この研究の著者のうち3名はBRAHMS社から援助を受けた。Yealy博士は、米国立衛生研究所(National Institutes of Health)が資金を提供し、Brahms AGがバイオマーカーのアッセイを提供した研究を実施したことがある。他の著者らおよびFine博士は関連する金銭的関係がないことを開示している。

JAMA. 2009;302:1059-1066, 1115-1116.